「週刊COMPASS」第97号

小説復興・文藝復興を真剣に目指していますが、こちらも真剣に羽田エアポートを目指しているのでしょう。

趣味はと訊かれたら、だれも訊いてくれませんが、「心身鍛錬です」と答えることにしています。

「身」の方は新たなメニューが加わることはあっても習慣化できているので、さほどの苦労はないです。

では、「心」はどうやって鍛えるのか。心のシットアップもマウンテンクライマーもプッシュアップもスクワットもありません。心のウォーキングなども聞いたことがありません。

編集者特権です。四半世紀前、土居伸光さんお考えの「心の自立」に頗る興味を覚え、『光』という作品を書いていただきました。その中に、「心は、自分の考えたことを、行動に移すことで鍛えられていく。」とあります。

だから十分に鍛えられていますなどと申し上げたいのではありませんし、「行動に移す」苦労は並大抵のことではありません。

藤岡陽子さんの書下ろし長編小説「僕たちは我慢している」(2025年4月刊行予定)に登場する穂高英信。彼は高2のとき父方の祖母に、

「英信、恵理香さんはあなたのことを頼りにしてますよ。『英信は心も体も〇〇ですから』っていつも私に自慢してくるの~」と言われました。恵理香さんとは、英信の母親です。

英信は、母が自分のことをそんなふうに思っていたなんて知らなかった、最高の褒め言葉だと思います。

身体のほうの〇〇とはよく聞きますが、心の〇〇は初めて聞きました。これって、藤岡さんが巧みに張られた伏線でもあります。英信は一世一代のとも言っていい大舞台で、大胆な行動に出ます。出来る人はほとんどいないでしょう。でも彼は、自分の考え、思いを行動に移すために、その折角の大舞台を途中で下りてしまったのです。原稿を読みながら、凄い奴だなと目頭を熱くしました……。

人間、自分の人生から知り得ることなど限られています。小説という他人の人生は、胸躍る羅針盤COMPASSです。優れた小説は、読む者の何れ必ず道しるべになります。

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