「週刊COMPASS」第79号

小説復興・文藝復興を真剣に目指しています。

「幼稚園のときのことで覚えているのは、運動会のときにお父さんが転んだことだけだよ」

長男に言われたことがあります。思わず笑っちゃいましたが、切ない笑いでした。

父親参加の「それ行け、スポーツ新聞!」と言う競技がありました。スポーツ紙見開き一枚を胸に当てて風圧で落ちないように走って旗ポールを回り、次のお父さんに新聞紙を渡す組対抗リレーです。お父さんたちになんとも敬意を表して考え抜かれた競技種目だと思いませんか。

NHKで、「お父さんは運動会でなぜ転ぶのか」という番組をやっていました。若い頃に運動の心得のある者にありがちで、気力・気分は昔のままなのに体力・運動能力が落ちているから脚がもつれる、と言うのです。典型でした。

我が「あかねすみれ組」はお父さんの参加人数が他の組より少なく、二回走る人を四、五人募りました。もちろん志願していました。その二回目が巡ってきました。周囲のお父さんたちに、大丈夫ですかと言われました。当然でしょうね、公然の大転倒後ですから。大丈夫じゃない傷みのようでしたが、そうは言えません、体育会出身者は。なんとか走りました。また転んだら、長男のトラウマになっていたかもしれません。

幸い骨折は免れましたが、軽くはない捻挫でした。捻挫には安静が何よりなのにまた走って、ダメ押ししたようなものですから。ソフトシーネと言う副木を足に巻く必要が生じました。しばらく普通の靴は履けません。その時すぐに思い浮かんだのは、以前から気になっていた、旧東ドイツのいかにも職人手作りと言う趣きの幅広武骨なコンフォートシューズです。あれなら履けるかもしれない。履けました。安くはない靴も、購入理由に天下憚ることはありません。売り文句の「素足で歩くような履き心地」そのままで、歩く魅力に、正に取り憑かれました。以来四半世紀、毎早朝、スキップする気分で歩いています。

ありがとう、スポーツ新聞!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です